男性の影に隠れてその才能を伸ばせずいた女性たちが各界で目覚め始めてきた感がある昨今。いよいよ落語界にもその波が押し寄せて来たようだ。
関西では桂二葉、東京では蝶花楼桃花。
そして、ここに金原亭杏寿がいよいよ二つ目に昇進し、噺家として本格始動したのである。
まだ二つ目お披露目興行中であるが3月31日の初めての「独演会」を浅草「東洋館」で開催する。
昨日までの前座が東洋館で独演会。これを聞いただけでその意気込みは感じていたが、その会もまだ開催されていないうちに満を持しての根多下ろしの会である。
今度は落語協会二階で4月から始めるという。それも毎月である。これには驚いた。
協会のお膝元での独演会は会場は狭めであるが場所的に杏寿の落語界へのアピールを感ぜざるを得ない。
他の二つ目たちはいよいよまごまごしていられなくなったに違いない。そんな世間の騒ぎ様を知ってか知らずか、会の名称は「黒門町で逢いましょう」といたって柔らかい。
いいじゃないか。気張った「勉強会」じゃ噺家らしくない。
噺家は水鳥のごとく生きなきゃ乙じゃない。陰で血の吐くような稽古を重ねてお客さまの前ではのほほんと演じるのである。
今から70年ほど前に志ん生、文楽、圓生と言う名人が競い合ってその芸を磨き、談志、志ん朝がライバルとして落語界を盛り上げたように。今度は女性落語家の何人かが落語界を牽引してくれる時代が目の前にある。
そして間違いなく金原亭杏寿がその一角を成すであろう。
「富士の山は一晩で出来た」の例え通り若き時代の能力は無限である。真剣に取り組む杏寿の目とその芸はあっという間にお客様の心をつかむはずである。
高座に上がっただけでその場を明るくするほどの芸人としての華は充分に備えている彼女だからまだまだ何枚もその殻を破って期待に応えてくれるはずだ。
4月22日その第一歩はここから始まる。これから杏寿を語るには欠かせない日になるだろう。その成長を絶対に見逃してはいけない。
演芸評論家 室輪まだこ