毎月恒例 金原亭駒平の
落語協会 2階
〒110-0005
東京都台東区上野1-9-5 落語協会
「百川」は名人上手が手掛けた名作である。
私が初めてこの噺を聴いたのは三遊亭圓生の「百川」で河岸の若い衆の粋がこの噺の骨格であるが、圓生の描く田舎者の百兵衛と百川の主人のやり取りが秀逸で名人芸の手腕に魅了された印象の噺だった。
そのあと古今亭志ん朝の百川を聴いて、まったくこの噺に対する思いを一変させられた。活き活きした江戸っ子の河岸の若い衆たちが百川の座敷狭しと活躍する。百兵衛さんや店の主人の印象より江戸っ子の姿に「百川」はこんな噺だったのかと志ん朝に引き込まれた。
その頃は志ん朝以上の「百川」は聴けないだろうと思っていたが、柳家小三治の「百川」を聴いてまたまた感動する。志ん朝の粋な江戸っ子に対して小三治の描く江戸っ子は実に間抜けで、それでいて威勢は人一倍。その間抜けさが溜まらないのだ。
江戸っ子とひとくくりに言ってしまえばそれまでだが小三治の江戸っ子たちには小三治ならではの個性が存在していた。
駒平の師匠世之介は確か小三治から「百川」を稽古してもらっているはずだ。古今亭の「百川」でなくなぜ柳家に稽古に行ったのか世之介がこんな話をしていたことを思い出した。
「馬生兄さんの百川に出てくる江戸っ子が腹に何もなくって軽薄で好きなんですよ。銀座生まれで木挽町で育った普段の兄さんの性格が上手く表れているんでしょうけど、あんな感じの若い衆を百川では演じたくて、兄さんの芸を盗んで百川を演出してるんです。」と言っていた。
確か当代馬生も小三治から稽古を受けたと記憶している。小三治の演出に当代馬生の味が加わった高座なのだろう。
駒平の芸風からはきりりとした江戸っ子より少し間の抜けた可愛げのある若い衆の方が任に合っている気がするから、志ん朝の演出より小三治の方が似合かもしれない。などとかってに想像している。
多分世之介から稽古を受けているのだろうから小三治的演出になるのか、はたまた古今亭に戻して演出してくるのか今回楽しみだ。
「千早ふる」は前座噺であるが真打まで高座に掛ける根多である。だからこの噺を寄席で聴いたのは百回は下らないだろう。それぞれの演出が楽しい噺で、駒平の噺を聴いた事があるが古今亭のそれで世之介の稽古を受けたものだろう。
世之介は落語ミュージカルで花魁千早太夫と龍田川の下りをアンコとして入れ人情噺にまで仕立て上げていたが、駒平はさらっと演じるのではないかと思う。演出的には話をする先生が本当に何も知らない先生でそのやり取りは世之介一門の芸で楽しい。
「十徳」は前座の十八番であるが、この頃寄席であまり聞かない根多だが、前座時代はこういう基本をしっかりやらないといけないと外の人間ながら私は思う。若いうちに「十徳」のような噺を是非構築して演じてほしい。それがゆくゆく大根多の基本になってゆくものと私は思っている。
この夏から駒平も毎週のラジオ番組のパーソナリティを任されているらしい。色々経験して次代を代表する引き出しの多い噺家に育って欲しいと思う。とは言え皆さんの応援あっての芸人です。背伸びしてでも挑戦している駒平の高座に是非お時間を割いて足を運んでもらいたい。
今回の「百川」を楽しみに原稿をしたためた。
演芸評論家 室輪まだこ
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