今、間違いなく金原亭杏寿は旬だ。今回師匠との「親子会」を池袋の「世之介の会」で開くというので楽しみにしている。
杏寿はこの春二ツ目に昇進したばかりの世之介の女性のお弟子さんではっきり言って落語家にはもったいないビジュアルを持っている。
私も含め落語ファンの「狼連」が二ツ目に上ると同時に品定めで殺到している。
見た目は芸人にとって大切なアイテムであるが、やはり大切なのは喋りの技術であると私は思っているのだが、三年ほど前テレ朝動画で芸者のコスプレで喋る杏寿を見て驚いた。
演目は「たちきり」、いっぱしの真打ちでさえ躊躇する噺を、まだ前座の駆け出しである杏寿が喋っていた。
テレ朝もビジュアルで出演を頼んだのだろうと高を括っていたが、その腕前に舌を巻いた。
普通の落語ファンはあの容姿に騙されて気が付かなかったかもしれないが、その後に出演する居並ぶ真打ちの噺家と遜色のない、イヤ、真打ちを喰う高座だった。
師匠の世之介に思わず電話したのを覚えている。
「師匠もったいないよ。あれだけ喋れたらあんな格好させなくても普通に喋らせればいいじゃない」と言ったら「前座が『たちきり』テレビでまともに喋ったら先輩の怒りを買いますよ。
今は色々試して、杏寿でなきゃできない落語も作らないとね。まっいいんじゃないの。
それに10分で喋らせた高座だから聴けたんですよ。まだまだ集中力が長い噺はもたないからね。」と言っていた。
世之介はちゃらんぽらんにいつも見せているが、噺の技術解釈は今五指に入る噺家だと私は思っている。
また稽古も巧い。まあ大学教授を10年もやっているくらいだから当たり前かもしれないが、杏寿も二ツ目に昇進して忙しいとは思うがあの時の感動を初の「親子会」で見せて欲しい。
そう言えば世之介がこの原稿を見て「『親子会』は三度目ですよ」と言った。
「何処であったんです」「今年の正月、沖縄で二カ所」「お客様来ましたか」「300人の会場で補助椅子出しましたよ」って「杏寿まだ前座だったじゃないですか」「遠い沖縄ならみんな気が付ないでしょ」
何んとも飄々とした師匠の世之介だが色々企みがあるらしい。
何にしても世之介の弟子金原亭杏寿との「親子会」楽しみにしている。
演芸評論家 室輪まだこ