文化庁が推進していた日本の『伝統的酒造りユネスコ無形文化遺産』登録が決まった。いわゆる世界遺産に日本の酒、焼酎、泡盛などが選ばれたのだ。
日本酒好きの私としては世界に日本酒が認知されて行く喜びを大いに感じている。これで全国各地の酒蔵にまた活気が戻ると尚更うれしい限りだ。
その文化庁の伝統的酒造りのアンバサダーに金原亭杏寿が選ばれたと聞いて早速文化庁のホームページを覗た。新宿末廣亭の映像で「シン日本酒噺2024」を杏寿が面白おかしく語っていた。皆さんも是非見てもらいたい。
また杏寿はZiplocRibbonのCFにも出演している。サッカーのロッカールームをイメージしたパリコレバックステージのランウェイを見立てたものでBEAMS COUTUREとZiplocのコラボレーションアイテムだ。
各界でこれから活躍する若手メンバーにも選ばれていて、原宿のオーロラビジョンなどでも映像が流れている。令和7年の杏寿の活躍は期待大だ。
そんな杏寿にちなんでだろう酒をテーマの今年の初「世之介の会」。
かつて立川談志という噺家は、「落語は人間の業の表現」と言った。どんな聖人も欲望に流されながら生きてゆくわけで言い替えれば「人生は業との格闘」でそのパロディが落語なのかもしれない。その中でも世界共通してのひとつの業が酒だ。
そして今回世之介一門による「酒にまつわる噺三席」駒平は「親子酒」を演じる。
二つ目に昇進しての初の正月に気合充分の演題である。先代馬生の傑作のひとつが「親子酒」だ。何度も高座で見たが先代馬生以上の出来に出会ったことがない。酒飲みの年輪で演じる噺をどこまで駒平がものに出来るのか楽しみだ。
杏寿は「たちきり」酒と女の花柳界の究極の恋愛ドラマがこの噺で落語の中のロミオとジュリエットだと私は思っている。酒のシーンは最後に出てくるだけだがこの一飲みの酒がこの物語の象徴である。忘れてしまいたい事、自分の悔しさを一飲みのシーンに描けたら最高の高座になるに違いない。
世之介「芝浜」。人の業と夫婦の情愛を刻んだ落語の傑作だ。世之介は馬生譲りの「芝浜」だが、稽古先は先代扇橋である。
扇橋は三木助の弟子だがこの噺は先代馬生から習って、圓生の落語を含め三木助に近づけたと言っていた。いわば扇橋のオリジナルである。そこから世之介も演出を加えている。
古今亭の系統は魚屋を熊五郎でやっているが世之介は勝五郎。拾った金も五十両でなく四十二両。三木助の形だ。世之介の「芝浜」は何度も聴いたがまた聴きたくなる演題のひとつ。今回も期待してやまない。
今年の初「金原亭世之介の会」。そして世之介一門の隆盛を楽しみにしている。
演芸評論家 室輪まだこ