夏の落語と言えばやはり怪談噺だ。
三遊亭圓生一門や林家彦六の弟子たちが得意とする分野であるが、古今亭一門も十八番にしている。
ただ三遊派のように人の怨念を表立って演出する落語と違って古今亭の噺にはどこか可笑しみが存在する。
例えば「へっい幽霊」「もう半分」「死神」に至っても人間の業の部分には触れてくるが聴いていて恐ろしいと言うよりも笑いが先行した噺が多い。
古今亭一門でも人間国宝の五街道雲助は逆にリアリティを表に演じていて、これはこれで聴きごたえのある高座である。
さて今回の「お化け長屋」に至っては怪談噺に入れてよいのか? 数ある落語評論家も滑稽ばなしに分類している事が多い噺だ。
私の好きな「お化け長屋」はやはり一番は志ん朝だろう。志ん生の芸を洗練させたテンポと間は今聞いても心地良い。
特に古今亭のこの根多は短い時には十五分ほどでも演じてしまうそんな軽さも好きだ。そしてもう一人好きなのが小三治の「お化け長屋」。滑稽噺の柳家一門の良さと小三治の独特の間がおっちょこちょいの江戸っ子の演出と相まってたまらない。
落語的な初めは巧くいって、その後しくじるパターンの噺であるから、先が知れて演者によっては客を逸らしてしまって、あまりウケないなんてことに成る。そのせいか近頃これと言った「お化け長屋」に当たっていない。
今回久しぶりに世之介が高座に掛けると言うのでとても楽しみにしている。世之介は小三治のところに前座時代から通って稽古してもらっていたから古今亭のそれとは一味違う高座を見せてくれるに違いない。
「夏の噺づくし」の今回。根多だしは「お化け長屋」だけだが怪談噺ばかりでなく「青菜」や「そば清」のような夏を感じる噺も是非聞いてみたいものだ。
弟子の駒平も毎月黒門亭で「百番勝負」の噺の稽古に励んでいるようで、大根多から軽い噺まで、根多数はかなり多くなってきている。
近頃の高座では時おり客を唸らせるほどの力をつけてきていると聞く。今回の夏の噺に何をぶつけてくるのかこれも楽しみにしている。風鈴の音が軒に聞こえるような心地よい噺を是非期待している。
演芸評論家 室輪まだこ