金原亭杏寿 根多おろし落語会『黒門町で逢いましょう』|落語会のお知らせ|金原亭杏寿 Official web site
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金原亭杏寿 黒門町で逢いましょう

金原亭杏寿 黒門町で逢いましょう

毎月根多おろし落語会

落語協会 2階

〒110-0005
東京都台東区上野1-9-5
落語協会
※会場ではマスクの着用をお願いいたします。

!満員御礼!

前売り 2,000円
当 日 2,300円

完売

“ 化ける ”

噺家の世界で「化ける」と言う言葉がある。とみに使われるのが客の入りが芳しくなかったのに目を瞠るほど満員になった時や、笑わない客が大いにウケる様になった時に使う。

そして噺家の芸が見違えるほど巧くなった時に「芸が化けた」と言う誉め言葉もある。

化けると言うくらいだからあっという間に変化したという表現を指すのだろう。確かに沢山の噺家さんを見て来たが落語が上手くなる時は急激な勢いで伸びて行く感がある。

先日3月31日、金原亭杏寿の初の独演会を浅草東洋館に見に行ったのだが、金原亭杏寿はまさにあの日「芸が化けた」瞬間を目の当たりにさせてもらった。

独演会であるから三席披露したのだが一席目、二席目「転失気」「反対俥」は無難な前座から二つ目に成った噺家の喋りだった。

中入りで口上があってトリの「たちきり」で会場は一変した。その一席は奇をてらった演出でもなく。近頃の女性噺家が視点を変えていじった噺でもなく。古典の先輩たちが描いて来たそのままの噺であったが観客が杏寿に吸い込まれていくのを感じた。

もちろん私も一観客として柳橋の置き屋に身を置いて一席を聞き終えた。あの淡々とした小ひさの母さんの言葉の運び、得てして気持ちが入り過ぎて空回りする落語を抑えて抑えて喋る二つ目の芸に驚きさえ感じた。まさに一日にして芸が化けた瞬間だった。

「寄席ちゃんねる」がその様子を映していたはずだからもう一度映像を見て確かめたいと思っている。あの日東洋館の満員のお客様がその瞬間を目撃しているはずだ。もしかしたらお客様のあたたかい眼差しが杏寿を押し上げたのかもしれない。あの感動はまだ尾を引いているのか前回4月の「黒門町で逢いましょう」のチケットは、この解説を受けた時にはすでに売り切れている。

さて前置きが長くなってしまったが、5月の「黒門町で逢いましょう」の根多下ろしはなんと「死神」だと聞いた。多くの噺家の「死神」を聴いてきたが、圓生を越える高座にはまだ出会えていない。

小三治も好きだったが圓生と違う噺にしたい一心を私は感じてしまってか、噺を聞きながらどうしても比べてしまうため噺にのめり込めない。それでも個人的には圓生と並べたい一席だ。圓窓、圓楽もそれぞれの世界観を持っていた。難しい噺のひとつなのだ。

それだけに真打ちでさえ躊躇する噺にあえて挑戦する意気込みは感じるが「たちきり」のような感動を杏寿がどう料理してくるか、黒門町でまたあの日の感動に逢いたいものだ。金原亭杏寿がビジュアルだけで終わらない本物の芸人にこの会を通して育って頂きたいものだ。

演芸評論家 室輪まだこ

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