シン・ラクゴ NAKAMEGURO
中目黒TRY
〒153-0051
東京都目黒区上目黒3−6−5 中目ビル5F
私的には新作落語で一番嫌いなのが、古典落語のパロディである。
なぜなら古典落語はそれをどう噺家が演出するかで名人芸にもなり、駄作にもなる出来上がっていない文学だからだ。
日本にはこういった文化がたくさん存在している。例えば着物の着付けがそれである。
着物は真四角に縫われた布が帯によって締められたときに初めて完成するファッションであるように。日本食の最たる口内調理もそのひとつ。おかずと御飯が口の中で混ざり合って初めて料理を完成させる。落語はそれと同じなのだ。
志ん生のパロディなら解かるが、落語の演題のパロディはあり得ないと思っている。
「八百屋芝浜」は魚屋じゃなくて八百屋でやろうと言うのならナンセンスだ。
世之介がプロデュースと言うので電話した。
「まだこさん。まんまと作戦にハマりましたね。そういう風に思って馬鹿にしながら見た人が、本当の『芝浜』の凄さを駒平から感じて欲しいんですよ。僕がそんなパロディチックな落語を弟子にやらせるわけないじゃないですか。」
「じゃあこの題名はどういう意味があるんですか」
「これ芝居なんですよ」
「お芝居」
「そうなんです。駒平はもともと小劇場の役者から私の弟子になったんです。だから駒平の今持ってる力を全部出しきった芝居をアンコにした『芝浜』の落語のマクラなんですよ。」
「八百屋は?」
「八百屋はこの芝居の演出をする井上僚章作の新作落語の根多で相手役の柚佳が芝居で演じる落語ですよ」
それで私はやっと理解したんです。
それで演出家の井上僚章が主催する井上寄席との一部二部のコラボなのかと。
この話を聞いて、なんだかワクワクしてきた。二つ目になったばかりの駒平が主演する芝居と落語の「芝浜」。
師匠世之介が国立演芸場で二十年以上続けてきたチケットの取れない「平成鹿芝居」公演の令和版がここにまったく新しい形で生まれるかもしれないのだ。
なるほど「シン・ラクゴ」だ。この新たな芸の生まれる瞬間を見逃してはならない。
演芸評論家 室輪まだこ