「落語」は世界でも特殊なエンタテインメントだ。
今どき着物姿が衣装。普段持つことも少なくなった扇子と手拭いが唯一の小道具。そして座布団に座り、ただ喋るだけ。こんな地味な芸能は他には見当たらない。
しかしこのとことんまで省略された舞台だからこそ、煌びやかな舞台で活躍する歌手、俳優、役者、ダンサー等、タレントたちを魅了してしまうのだろう。
「天狗連」とは特に落語を玄人裸足で演ずる江戸時代から存在する人たちの総称で、勿論そこから本物の芸人になった落語家も大勢いる。
今なら大学の落研がその一つだろう。今回出演する世之介の弟子の駒平も志ん喜も、実はこの「天狗連参る」のメンバーから噺家に弟子入りしてしまった強者たちだ。
それぐらい落語の高座はたまらない魅力があるのだろう。
この七回目を迎える「天狗連参る」。もっとも「別館」などを入れれば二十回近い会だが寄席通いを始めて60年近い私が観てもかなり楽しめる会であるし実力もかなりなものだ。
今や彼らをウキペディアで調べれば世之介の天狗連の弟子と明記され、凖落語家として世間で認知されている。
何と言っても天狗連志ん進(日出郎 / blog)は毎回奇想天外な世界で観客を魅了する。
第一回目に「猫の皿」で立って歌い始めた時は腹を抱えた。「厩火事」で「おサキさん」が、オネエで本名が左吉だったり、相談された兄さんがトランスジェンダーであったり、まるでジェットコースターのような落語は健在だ。今回の「堪忍袋」もかなり期待したい。
天狗連役車(松井悠)は松井誠を親に持ち、すでに出来上がった大衆演劇の座長である。毎回、日頃の舞台を高座に反映させて思わず祝儀を投げたくなるような艶姿で演出する。
今回もきっと期待に応えてくれるに違いない。今回の「大工調べ」はハマり芸である江戸弁口調を大いに期待する。
天狗連俳遊(渡辺裕太)は昨年偉大な父渡辺徹を亡くし一皮も二皮もタレントとして人間的にも成長した。彼の父が最後に観た舞台がなんとこの天狗連参るだった。大いに笑う渡辺氏の声が今でもわたしの記憶に新しい。今回の「化け物使い」。力の入れようは他のメンバーとは違うはずだ。
天狗連鳩太郎(フォーンクルック幹治 / Twitter)はドイツ系アメリカ人で母が日本人のハーフであるが、世之介が「一番落語的才能がある」と言わしめる程の技量で、先日あのアメリカ駐日大使のラーム・エマニュエル氏に英語で「お菊の皿」を聴かせたぐらいなのである。
日本語もネイティブ、英語もネイティブ。日本語が下手なアメリカ人を演じさせたら右に出るものは居ない。最高だ。
「粗忽長屋」にもきっと出てくるだろう日本語のヘタなアメリカ人が何処で姿を現すか今からワクワクしている。
今芸能界では「落語」を演じる事がブームになっていて各所で役者やタレントの落語会を目にするが「天狗連参る」ほどバラエティに富むタレントの会を見た事がない。
コロナも明けていよいよ本腰のエンタテインメントの季節が戻って来たようだ。
先ずはこの夏を「天狗連参る」で目いっぱい笑って過ごしてもらいたい。毎回満員御礼札止めの会であるから、早めの予約を取る事をお勧めする。
■ 演芸評論家 室輪まだこ