昔から芝居でも寄席でも怪談噺は夏の定番だった。暑い夏を少しでも涼しく感じようとする先人のアイデアである。今は寄席もクーラーが効いていて快適だが、私が学生時代の池袋演芸場は団扇を扇ぎながら落語を聴くのが当たり前だった。
池袋演芸場にあったか忘れたが、劇場によっては貸し団扇なんてのがあった。しかし快適になったとはいえ夏の風物詩ともいえる怪談噺は時代が変わっても寄席の夏の定番だ。
東京では林家彦六の怪談噺は前座が化けた幽霊が客席に登場し、子供だましと知りつつもそれはそれで驚いた後笑いが会場に広がったものだ。良い時代であった。
もちろん素話の怪談噺は夏の寄席では欠かせない落語だ。今回は怪談特集と言う事で世之介一門が前座からトリまで幽霊噺しを披露するそうだ。
古今亭一門の怪談噺は明るい志ん生の影響からか恐ろしいと言うよりユーモアがあってどの噺も楽しい。
「もう半分」「真景累ヶ淵」なども只恐ろしいと言うような演出にはなっていないから楽しみである。
今回は弟子の駒平が「へっつい幽霊」古今亭のこのネタは師匠世之介が志ん朝から稽古して貰い、師匠から駒平へ受け継がれたネタだ。
以前、三遊亭天どんの配信落語で「前座対真打ち」という番組があって一度聴いたことがある。前座としては中々の出来だった。あれから二年は経っているからその成長を期待したい一席だ。
二つ目の杏寿は「死神」先日「黒門町で逢いましょう 根多下ろしの会」で初めて聴いたが面白かった。
まず明るく笑える演出が良い。その対照的に置かれた死神だけがこの落語の中でシビアなのがとても光っていた。
立川談志が「人物を芸で描き切れないならばその真反対にある人間を臭いほど描けば対象の人物に人間性が出てくるものだ」と言っていたが、正にその演出だったように思える。
死神を無理に演出せず演じた手柄だと思った。またその杏寿の「死神」が聞けるのはとても楽しみである。
世之介は「妲己のお百」、まだ世之介の「妲己のお百」は聴いた事がない。初めて聞く噺である。以前「講釈の先生から根多を稽古して貰う」と言っていたように覚えている。
いよいよこの夏に来て高座に掛けてくるのかとワクワクしている。夏の暑いさかりの幽霊、お化けの噺特集。お盆前に池袋演芸場に足を運んで背筋に汗のひとつも流してみてはいかがだろう。
演芸評論家 室輪まだこ