金原亭杏寿 根多おろし落語会『黒門町で逢いましょう』|落語会のお知らせ|金原亭杏寿 Official web site
toTOP
金原亭杏寿 黒門町で逢いましょう

金原亭杏寿 黒門町で逢いましょう

毎月根多おろし落語会

落語協会 2階

〒110-0005
東京都台東区上野1-9-5
落語協会
※会場でのマスク着用はお客様の判断でお願いいたします。

満員御礼

前売り 2,000円
当 日 2,300円

完売

\ 注目動画はこちら /

『柳田格之進』

杏寿が「柳田格之進」を高座にかけると聞いて驚いた。真打でさえ中々手を出さないこの噺を二つ目になってまだ半年ばかりの噺家が掛けるというのだ。

古今亭のネタの中でも「お直し」や「富久」に匹敵する大ねたのひとつである。元々は講釈の「柳田の堪忍袋」を三代目春風亭柳枝が落語にしたと言われている。そのため言いたての多い噺であるが古今亭志ん生が言い立てを減らして落語の人情話に仕立て上げた傑作である。

その後先代馬生が磨き上げた。志ん朝は若いころからこの噺を練り、晩年は得意ネタとしていた。この三人の高座がいまだに芸人たちの口の端に残り古今亭の十八番と言われている所以がそこだ。

私はもちろんそれぞれの噺を聴いたが昭和50年代の東横名人会の先代馬生の「柳田格之進」を忘れられない。娘の絹が吉原から柳田のもとにもどり萬兵衛、徳兵衛の首を取りに来た折にいう「うしろ姿はまるで老婆だ。かける言葉があれば教えてくれ。」や作り笑いをしながら絹にいう「わしは初めて嘘をついた。利発なお前は騙せぬか」など各所に出る馬生独自のセリフの臨場感と完成度は素晴らしかった。

今でも思い出す度にゾクゾクする高座だった。その後杏寿の師匠である世之介を何度か聞いて馬生イズムを感じたのを覚えている。

あの志ん朝でさえ「この噺は毎回完成できない噺の一つで死ぬまでに納得ゆくことができるか分からない」と言いしめたネタである。それを二つ目の杏寿が高座にかける事を師匠の世之介はどう考えているのか。聞いてみた。

「ネタに貴賤はありませんよ。『道灌』であろうと『饅頭怖い』であろうと人情噺であろうと難しさは一緒です。違いは長い噺なのでどこまで集中力を持って噺ができるかですね。

あとは年齢と年季の持つ説得力がどこまでお客様に伝えられるか。うちの師匠だって柳田や富久を稽古したのは二十代ですよ。花咲いたのは四十代かもしれないけど若いうちに高座にかけなきゃ未来は無いでしょ。

僕が「文七元結」や「芝浜」を稽古つけてもらったのは前座のころですよ。小三治師匠や談志師匠、扇橋師匠に大ネタを色々稽古してもらったのも前座と二つ目になったばかりのころです。

要は当人が演りたいと心から思っているときに稽古する事が大切なんです。怖いもん知らずの時期にどんどんかければ良いんじゃないの。その代わり稽古は大変だと思いますよ。苦労すれば良いんじゃないですか。

お客様もまさか名人芸を期待してるわけじゃないでしょ。逆に言えば今回聞いた噺が数年後に目を見張るネタに変わっていたら、応援した甲斐を感じてくれるんじゃないですか。」

師匠は寛大だった。何はともあれ金原亭杏寿がどんな「柳田格之進」を聴かせてくれるのか楽しみがじわじわ沸いてきた。

このところの杏寿は目を見張る進歩を見せているから、「死神」や「妲己のお百」「幾代餅」「お菊の皿」同様にひょっとして驚く高座を届けてくれるかもしれない。

今回は特に見逃せない一席となるのは間違いないだろう。

演芸評論家 室輪まだこ

TOP