5月にはテイチクエンタテインメントから歌手として初のCDメジャーデビューした杏寿の歌が「品川心中」である。
やはり持ち根多として外せない一席であるから二つ目になって半年。今回の演題を「品川心中」と聴いていよいよ稽古に入ったかと思った。
古今亭一門の十八番を問われればやはり廓ばなしは外せない落語である。その中でも「品川心中」は志ん生、馬生、志ん朝と珠玉の高座を聴き続け杏寿の師匠世之介の高座も何度も聴いた一席である。
吉原の花魁と違い品川の廓ばなしはまた独特の雰囲気が要求される。
品川宿の廓の情景は川島雄三監督の日活映画「幕末太陽傳」を観てほしい。
「居残り佐平次」を下地に廓ばなしがちりばめられた名優のオンパレードの傑作映画で品川宿の廓の様子が実によく描かれた作品だ。杏寿を含め落語ファンの皆さんも「幕末太陽傳」はぜひ観ていただきたい映画だ。
「品川心中」のエピソードでは小沢昭一が本屋の金蔵を演じている。当時助監督を務めた今村昌平監督に直接会って話を聞いたところによると今村監督が初期台本のほとんどを書いたと言っていた。
その際やはり志ん生の「品川心中」のイメージをそのまま映像に反映したがどこまで描けたかはわからないと語ってくれた。今回今村監督をも唸らせた偉大なイメージをどう杏寿が落語に仕上げてくるのかたいへん期待している。
さて「黒門町で逢いましょう」も早6回目を迎え、「幾代餅」「死神」「青菜」「天狗裁き」「妲己のお百~十万坪の亭主殺し」そして今回「品川心中」。
大根多ばかりであるが杏寿は「世之介ひよこふぁーむ」の根多下ろしの会をやはり毎月平行に行っていてそちらは「目黒の秋刀魚」「お血脈」「牛褒め」「反対車」「堪忍袋」など二つ目が寄席で喋れる根多を配信で行っている。
聞くところによると10月あたりから「世之介ひよこふぁーむ」も東日本橋あたりの会館で有観客配信で行うらしい。楽しみである。
毎月二席の根多下ろしぜひその気概をこれからも忘れず精進して観に行く我々を楽しませてほしい。
演芸評論家 室輪まだこ